ある日の日記(2月19日)

 今年に入って初めての2連休、ということで、最近もっぱら執筆のために読み進めている尹健次『「在日」の精神史』に取り組むつもりだったが、すこしでも時間に余裕ができると気が緩んで、つい楽な本を読もうと逃げてしまうのである。くわえて、近頃めっきり夢中になってしまっている某フリマアプリで格安本を検索して、売上金が残っているものだから、ほいほい注文してしまう。そうすれば、関連書籍が気になりはじめ、書誌情報を検索する、Kindleで試し読みする、といった有様でなかなか当初の予定通りには進まない。時間があるというのはつくづく罪である。がんらい注意力散漫な私はどんどん寄り道のような読書をしてしまう。柳美里『JR上野駅公園口』も序盤ほどおもしろくなくなってきて、あと十数頁なのに終わらない。ちょうど昨日近所の古書店で買ってきた種村季弘『雨の日はソファで散歩』が手元にあるのでぱらぱらめくる。めくっていると宅配便で同氏の『江戸東京≪奇想≫徘徊記』が届く。目次からして誘惑的である。東京にはかなりの頻度で出向いた時期があったとはいえ、知らない土地も多い。これはじっくり向き合う必要があると悟り、一章ずつ読むと決める。種村季弘を読みはじめると、小説の下調べのために必要なキーワードがいくらか脳裏を過り、どういうわけか学部生の時分以来、名前すら忘れていたのではないかと思われる岡崎武志にたどり着き、懐かしさのあまりKindleで『蔵書の苦しみ』を読みはじめる。かつて授業をさぼって元町の古本屋に出入りして尾崎一雄などを読み漁っていた記憶がよみがえる。木山捷平の名も出てきて、そういえば近所の古書店で売ってたなあと思いだす。近々、見に行こう。そうこうしているうちに14時半くらいになっていて、さすがに腹が減ったので、なか卯に行く。先日もらったクーポンの竜田揚げと親子丼。さっさとたいらげて恵文社一条寺店に向かう。先日、岸政彦がツイートしていたのを思い出してジュリー(沢田研二)を聴いてノリノリになる。ふだんはあまり見ないサブカルコーナーをのぞいてみれば、つげ義春の本が売っている。学部生のころ、バイト先の社員に「ガロ系好きそう」と言われたのを思い出す。

 

Everyday is a No-Money Day

 これほど世間をときめかせようとはついぞ想像しなかったが、そんな一読者の私の想像をはるかに超えて世代を問わず多くの読者を獲得した在英ライター、コラムニストのブレイディみかこ氏による『ブロークン・ブリテンに聞け』に"It's a No-Money Day"というフードバンクを利用するシングルマザー家庭が描かれる絵本が登場するが、我が家も毎日がNo-Money Dayであり、今日明日の食べ物のことをいつも考えている。昨年、私が胃を悪くして労働時間が減少したことによって、笑うしかないくらいマジで貧乏なのである。Seriously bimbo! Bimbo! そういえば、私の大好きな大瀧詠一の曲にも「びんぼう」というのがあった。大瀧の詠ちゃんが、うれしそうに何度もびんぼうびんぼうと連呼する素敵な歌だ。貧乏というのは深刻だが、びんぼうという音の響きが実はちょっとというかかなり好きかもしれないと思うことがある。さっき書いてみてアルファベット表記も悪くないなと思った。B-i-m-b-oだぜ! それはともかく、うちがマジで貧乏なのはひとえに私自身の抱える数多の問題のせいなのであり、アカデミック・エリートの同居人(政治学者)には年がら年中苦労ばかりかけており、それについてはおいおいじっくり書くことになろう。そういうわけで、貧乏人には年末年始もクソもへったくれもなく、一応大晦日と三が日は仕事こそなかったが、紅白を見る以外に年末らしいこともせず、エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態』とブレイディ氏の過去の著作や単行本未収録のブログ記事、インタビュー等をあれこれ読んでいるうちに、なんもめでたくない心境のまま、あっけなく新年を迎えた。そして、今日、新年早々面接に行って、貧困から脱するための新しい賃労働の仕事が見つかった。これでたぶん飢え死ぬことはないはず。たぶん。借金取りが押しかけてくることもないはず。たぶん。(ちなみに、実際に押しかけてこられた経験は、いくら貧乏とはいえ、さすがにない。)今年は同居人にもっと楽な生活をさせてあげたい。いや、人並みの生活を送らせてあげたい。どうやら本人はいやでいやで仕方ないらしい明日の博論提出、どうかつつがなく終わりますように。終わったらきみの好きなヴィクトリア・ケーキでも焼くよ。